日本大学生産工学部 環境安全工学科

教員と研究テーマ紹介

教員からのメッセージ

身の回りの「ちょっとした違和感」「なんとなく気になる」を起点に
地域の環境をよくする実践的な研究を

准教授 永村 景子 Nagamura Keiko

私の専門を一言で表現するのは難しいのですが、社会基盤施設や公共空間を作るとき利用者である市民にどう使いこなしてもらえるか、どうすれば暮らしやすいまち並みを実現・維持できるのかを模索する、都市計画・地域計画という分野です。建築や土木を横断する分野で、最近ではコミュニティデザインやソーシャルデザインと呼ばれることもあります。

かつての建設業界では「良いものを作ろう」「すごいものを作ろう」という「ものづくり」の視点が重視され、使う人たちの視点が直接反映されませんでした。そこから問題が生じることもあり、「開かれたものづくり、市民に近いまちづくりをしなければいけない」という動きが起き、こうした分野の誕生につながりました。そのため、建設系の分野ではあるのですが、工学的に特定の技術を扱う、数式や理論から答えを導き出すといった研究は行っておらず、「実践的な研究(アクションリサーチ)」によって社会に研究成果を還元することが主な目的となります。社会学などに近いようにも思えますが、最終的には空間や環境というものにアプローチをしていくところが、工学で扱うテーマだと言えるでしょう。

私が長年取り組んできているプロジェクトを例に挙げると、鹿児島県のある地域でそこに住む人たちと地域づくりに取り組んでいます。研究のきっかけは水害からの災害復旧事業で作られた分水路(河川から溢れそうな水を流すための水路)の活用方法を模索することでした。公共空間をどう生かすかが当初の目的でしたが、住民と対話を重ねていくと地域全体も活性化しなければいけないという声も挙がり、まちの景観や観光も含めた地域の環境を模索するプロジェクトとなりました。ただ地域活性化に取り組むだけではなく、地域の将来を見据えて高校生にも参加してもらうなど、人材の育成も進めています。地域環境の変化だけでなく、地域の環境形成に関わる人の成長を見ることもでき、大きなやりがいを感じました。

こうした実践的な研究のためには、地域の方々の考えや思いを調査し、顕在化させ、自分が考えている環境をどういう事象・現象として捉えるか、つまり、どういったデータを用いればその環境を数値化でき、表現できるのかを探すところから始まります。ゼミでも身の回りの環境に気になること、引っかかっていることがあるという学生が集まっているのですが、マンツーマンでの研究相談を重ねながら「こういうデータを探してみたら」「こういう事象をデータとして起こしてみたら」と提案し、一緒に悩みながら研究を模索しています。

卒業後は地域の環境整備や維持に携わる地方公務員や建設コンサルタントといった進路が考えられます。卒業生の中には公共交通に関わる鉄道会社やバス会社などに進んだ学生もいました。

建設分野の研究と聞くと「自分はそこまで興味を持っていないから」「明確な目的や問題意識がないから」と感じてしまう人も多いかもしれませんが、なんとなく感じている違和感や気になる風景をうまく表現し、顕在化して、未来のまちの環境を描くのが都市計画・地域計画です。建築や土木という枠組みに捉われない環境安全工学科だからこそ、幅広い視点を持って、いろいろな課題に取り組めるのではないでしょうか。

いつも歩いている道のりでも、ちょっとずつ観察をしながら歩くと、わずかでもどこかが良くなっている、悪くなっているといった環境の変化に溢れているはずです。そうした変化は、無関心に過ごしていると気がつかないでしょう。気づかなければ何も変わらないし、気づけば将来的に悪くなる方向を止められるかもしれない。あるいはもっとよくすることができるかもしれません。ただ道を歩くのではなく、いろんなものが見えて、いろんなことが起きていることに気がつける人に、ぜひ来ていただければと思います。









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