日本大学生産工学部 環境安全工学科

教員と研究テーマ紹介

教員からのメッセージ

あがいている時間こそ自分が成長している時間 そうして身につけたスキルこそ社会で生きる

教授 髙橋 栄一 Eiichi Takahashi

私が担当している授業は、「電気エネルギー概論」と「制御とプログラム」で、プラズマを利用して水素をつくるなど新しい燃料について研究し、地球温暖化を防ぐ方法を探っています。

私は高校生の頃、「エネルギー問題」に興味をもっていました。例えば核融合。水から水素を取り出して地上に"太陽"をつくるんだと。日本は資源小国ですから、"無限のエネルギー"を生み出す技術に夢を見いだしたのです。だから筑波大学に進学して核融合を研究し、博士号をとったあとに就職した通産省(現経産省)の電子技術総合研究所でも引き続き同じテーマに取り組みました。
その研究所が独立行政法人化され、「産業技術総合研究所」(産総研)に変わって、研究テーマもプラズマを使った燃焼効率のいい内燃機関など、産業に寄せたものになりました。でも新しいことを知る研究が好きなんですね。50代になって管理部門を担当するより研究を続け、勉強したいと考え、日本大学に入りました。

産総研から引き継いで来た研究テーマがひとつあります。それはe-fuel(合成燃料)の燃焼研究です。再生エネルギー由来の水素と大気中のCO₂を触媒で反応させて製造する液体燃料です。e-fuelをガソリン車に使えばそのままカーボンニュートラルにできますが、ネックは水素が高価なこと。環境問題を考えると水素社会の実現を進めなければいけないのですが、そのためには水素を手頃な価格にする必要がある―そう考えて、冒頭でも少し触れましたが、メタンガスをプラズマで分解して「ターコイズ水素」を作る研究を大学で始めました。水を分解して水素をつくる方法よりも8分の1のエネルギーですむので水素自体もコストダウンできるわけです。ターコイズ水素はいま、アメリカにある大きなプラントでつくられています。しかし水素はかさばるし高圧なので輸送しにくい。そこで私たちは、将来的に自宅などで簡単にメタンを水素化できる装置の研究を進めています。

プラズマによる水素の発生というのはすでにできているので、現時点での課題はいかにしてたくさんの水素を安くコンパクトにつくるか。解明したいのはメタンがどういうふうに分解されているかというメカニズムです。何百本もある化学反応のうち、どの経路をたどって水素になっているかを突き止めたい。放電したどのタイミングがキーになっているかがわかってきたのですが、まだまだ謎は多い。こういう時、近道はないんです。いろいろな仮説を立てて、計算して実験する。失敗することが多いけれど、それを繰り返してあがくしかない。後退しているように感じて精神的にキツい時間ですが、それは無駄ではないんですね。そのプロセスで勉強を繰り返すうちにレベルが上がっているんです。そうして全体を俯瞰できるようになると、こことここは繋がっているんじゃないの? という気づきが生まれる。そうして一気に研究が進むことがあります。

「夢見て、行い、考えて、祈る」。これは、大学院生時代に読んだ本に書かれていた言葉ですが、まさにそれの繰り返しだと思います。「運鈍根」という言葉がありますが、科学者に必要なのは粘り強さです。大学で知識や技術、スキルを学ぼうとしている人がいるかもしれないけど、それだけではないです。スキルは自分が試行錯誤の中で身につけるものです。そのプロセスにこそ価値がある。それこそが社会にでた時に、自分の道を切り開いていく力になっていくと思います。

環境問題というのは、幅広い分野の知見を総動員しないと立ち向かっていけません。私が所属する環境安全工学科では化学、生物、物理、地域作りなどいろいろな専門分野の先生がいるので、わからないことがあったら、すぐに教えてもらえるというメリットがあります。例えば水素も社会で使ってもらうためには地域のニーズを理解しなくてはならないでしょう。そうして学問の壁を超えた時にソリューションが見いだせる。環境に対する「思い」をもって爪痕を残したいという人が私たちの学科に来てくれたら、きっと素晴らしい研究ができると信じています。私も皆さんを全力で支援します。

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